WINEP

-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
転載希望時は連絡先まで

放射能汚染野菜は水で洗っても放射能があまり取れない

Date: 2011-03-25 (Fri)

以下の文章はWINEPブログに載せているがここにも転載したものです。

   

非常に悔しいことだが、放射能汚染野菜は水で洗っても放射能があまり取れない

テレビの識者が「放射能がついていても野菜は洗えば放射能が10分の一に減少する」と言ったり、最近では半分ぐらいに減少するといったりしている。

文献を調べていたら、すでに1958年の論文で研究室の先輩が厳密な実験を行っていることがわかった。以下の文献である。

核爆発に伴う農作物の放射能汚染に関する研究(第4報) 三井進午・天正清・葉可霖・小野勝巳 日本土壌学雑誌29巻3号109-116ページ(1958年)

周知のように1945年から1980年までに米、旧ソ連、英国、フランス、および中国は1200回にわたる大気圏及び地下核爆発実験を行っている。この論文では、東京に1956年4月10日に1500cpm/平方メートルの放射能を含んだ雨が降り、6月24日に52500cpm/平方メートルの放射能を含んだ雨が降った時に、5月29日から8月17日の間に東京、川崎、横浜の全54地点について各種の野菜を入手して、放射線量を分析している。

根菜であるジャガイモや大根の可食部は検出限界以下であるが、ほかの野菜はほぼすべて放射能が検出されている。

このように当時は一連のビキニ環礁などでの原水爆実験で日本にたびたび放射能が飛んできていた。しかし、現在のように放射線量の監視体制ができていなかったので、データがなく、汚染された野菜を食べていけないという行政の動きは全くなかった。それでもこの放射性降下物(フォールアウト)に関しては特別に日本人の健康被害は何も報じられていない。(ここでは言葉を選ばなくてはならないが、報道がないからと言って、異変がなかったということではない。我々が健康被害をまったく気にしないで済んだということである。例えば、核実験のために日本人の発がんリスクが高まったかどうか等の疫学的研究はないし、そういう研究は非被ばく区域などを指定できるわけがないのでやりようがないだろう。)

ところで、本題だが、この同じ論文に載っている以下の表は、一回目の降雨の2週間あとの4月25日に農事試験場で採取した高菜の分析データである。

この表の汚染野菜の実験条件は、左の欄に書いている各洗液に30分間、時々撹拌しながら野菜を浸漬したのち、水道水で洗浄したということである。酢酸はお酢である。クエン酸やNa2-EDTA液というのは金属を取り除くキレート剤である。ライポンFは中性洗剤である。右の欄の数値をみると、これらで洗浄処理をしてもわずか2割強しか放射線量が減少していないことがわかる。この様な結果はむしろ当時の研究者には常識であったらしい。(M. Yatazawa and T. Ishihara: Soil and Plant Food 1, 21-22(1955))

(注:上の文章に出てくるcpm(counts per minute)という単位は、この測定器が測った一分間あたりの放射能の計数値である。当時は試料を灰にして、ガイガーカウンターで放射線量を測った。これをベクレル単位に厳密に換算するのは難しい。)

この表の結果からは、非常に残念なことだが、放射能汚染野菜は、水で洗っても気休め以外の意味がないことがわかる。

この論文の著者たちは「野菜の一時的に強い放射能汚染の主たる経路は、経根的なものではなく、放射性降下物のかなり堅固な表面付着並びに一部はそれに伴って起こる直接的吸収にもとづくことを示すものである」と結論している。


洗液          cpm/10g乾物重
===============================
無洗浄         122± 8.1
蒸留水 116± 5.7
1%クエン酸液 99± 5.6
1%酢酸液 113± 5.7
1%食塩液 100± 5.6
1%Na2-EDTA液 107± 5.7
1%ライポンF液 94± 55
===============================