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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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鉄の制御こそが今、がん予防に重要であると考えられる(豊国伸哉)

Date: 2017-10-07 (Sat)

鉄バイオサイエンスの発展と将来
名古屋大学大学院医学系研究科 病理病態学講座 生体反応病理学/分子病理診断学
豊国伸哉

地球上のすべての生命体において鉄は必須元素であり、高等生物の生命は、鉄・酸素・食物により紡がれている。現在の酸素の時代のはるか昔、生命の生まれた時期の原始海水には触媒性2価鉄が多量に含まれていたことは大変興味ある事実である。酸素は細胞内で電子の流れを作り出すことにより、制御された生体化学反応を執行するが、体内に取り入れられた酸素の数パーセントは活性酸素・フリーラジカルとなり、生体分子に、切断・修飾・重合などの障害を与える。この反応は2価鉄の触媒によるFenton反応として1984年より認識されている。その後、放射線の生物作用として理解されてきたが、1968年にsuperoxide dismutaseが発見されると事態は一変し、活性酸素・フリーラジカル反応が細胞内で常時発生していることが認識されるようになった。発がんは、1980年代に始まるがん遺伝子とがん抑制遺伝子の概念の確立により、論理的に理解されるようになった。古典的な発がん要因として、環境因子・習慣・職業暴露・食習慣・感染症・慢性炎症・遺伝的要因などが列挙され、それを防ぐ手立てがとられてきた。しかし、日本においては1980年以降、がんが死因の第一位であり、右上がりである。これには、致死性感染症の制御による寿命延長や、降圧剤による血圧コントロールが関係深いと考えられるが、死因としてのがん独走は今のがん予防法に大きな疑問を投げかけている。私は、これまでの研究成果より、がんの独走を酸素と鉄を利用していることの宿命と理解したいと考えている。Wild typeのラットにFenton反応を起こすことで
人のがんのゲノム変化と酷似したがんが発生することはこの仮説を強く支持する。アスベストによる発がんも異物発がんで基本的には過剰鉄を介するものであり、ラットとヒトできわめて類似したゲノム変化がみられることも注目に値する。鉄の制御こそが今、がん予防に重要であると考えられる。鉄は一度血液に入ると体外への積極的な排出経路は無い。50歳を過ぎると基礎代謝も低下し、鉄が余分になる。私が年2回の全血献血を奨励する所以である。最近触媒性2価鉄の蛍光プローブによる可視化が可能となり、また、プログラムされたネクローシス(壊死)としてフェロトーシスという新たな概念が2012年に生まれている。過剰鉄の視点からの研究は今後ますます重要になると考えている。

第41回鉄バイオサイエンス学会学術集会 (2017・9・23−2017・9・24)特別講演I より