WINEP

-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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イネの鉄過剰ストレス応答について

Date: 2018-07-13 (Fri)

Physiological nad transcriptomic analysis of responses to different levels of iron excess in various rice tisssues

Soil Science and Plant Nutrition
Doi:10,1080/00380768.2018,1443754


様々なイネ組織における異なるレベルの鉄過剰ストレス応答の生理学的およびトランスクリプトーム解析
May Sann Aung・増田寛志・小林高範・西澤直子

 鉄過剰毒性は植物の主要な栄養障害の一つであり、酸性土壌で天水および潅漑により栽培されたイネの収量および生産に影響を及ぼす。イネは、鉄過剰による損傷を防ぐために排除 (exclusion) および包含 (inclusion) 適応戦略を有すると報告されている。しかしながら、鉄過剰毒性応答の背後にある分子機構と、それに関与する遺伝子はほとんど知られていない。これらの機能を明らかにするために、我々はイネを異なるレベルの二価鉄過剰条件 (Fe2+: ×1、×10、×20、×50、×70) で14日間育成し、生長速度、鉄過剰ダメージの指標となる葉のブロンジングスコア、およびミネラル濃度を分析した。続いて、異なるレベルの鉄過剰に対する様々な組織(根、茎葉の基底部、茎、古葉、および最新葉)における遺伝子発現応答のパターンを、マイクロアレイ法により解析した。その結果、鉄過剰のレベルが高いほど、鉄が優先的に古葉に輸送され、最新葉の鉄過剰によるダメージを回避することが明らかになった。我々は鉄過剰レベルを非影響段階、影響段階、致死段階の3つの段階に分けることを提案した。排除適応戦略として、根における鉄の吸収・輸送関連遺伝子の発現が非影響段階を含む全ての鉄過剰レベルにおいて抑制された。根は鉄過剰時に植物体への鉄の取り込みを防ぐために重要な役割を担うことが示された。包括適応戦略として、まず、鉄過剰下で様々な組織で発現が強く誘導されるOsNAS3、OsVIT2、およびフェリチン(OsFer)などの遺伝子が、植物体内の過剰鉄の解毒または隔離に重要と考えられる。 OsZIPは鉄過剰時の亜鉛ホメオスタシスの維持に寄与している可能性がある。さらに、イネは酸素・電子の伝達に関わる遺伝子、シトクロムP450ファミリー遺伝子、いくつかのNAC型転写因子遺伝子の発現を誘導して、影響段階における鉄過剰に起因する活性酸素種および非生物的ストレスを回避する。最新葉および根においては非影響段階と影響段階で類似した鉄ホメオスタシス機構を用いるが、古葉、茎葉の基底部、および茎組織においては非影響段階と影響段階で異なる機構を用いることが示唆された。以上の結果は、多様なイネ品種において鉄過剰耐性を向上させ、低地でのイネ生産を向上させることを目的としたスクリーニングおよび育種の発展に貢献すると考えられる。

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この論文で非常に印象的なことは
OsVIT2という液胞への鉄のトランスポーターが鉄過剰処理した水稲のあらゆる組織で強く誘導されていることである。過剰に吸収された鉄が、液胞にストックされて、フェリチンとなって集積されて無毒化されていることが想像される。この遺伝子を種子の胚乳の液胞で強く発現させれば鉄含量の高いコメが作出される可能性が高い。
(森敏 記)