WINEP

-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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バイオマス資源としてのポプラの鉄欠乏応答性遺伝子について

Date: 2018-07-13 (Fri)

Iron-deficiency response and expression of genes related to iron homeostasis in poplars

Soil Science and Plant Nuterition 2018 64,576-588
https://doi.org/10.1080/00380768.2018.1480325

ポプラの鉄欠乏応答と鉄ホメオスタシス関連遺伝子の発現解析

増田寛志 May Sann Aung 前田慶介 小林高範 高田直樹 谷口亨 西澤直子

植物の鉄欠乏は、世界中に広がる石灰質土壌において深刻な農業上の問題である。樹木の ポプラは重要なバイオマス植物であり、ポプラの鉄欠乏を克服できれば、世界のバイオマス生産性を向上させることが期待できる。しかし、ポプラの鉄欠乏応答やその鉄ホメオスタシス関連遺伝子についての知見は限られている。そこで、ポプラの鉄欠乏応答機構を明らかにするために、我々は石灰質土壌を用いたポット栽培と水耕栽培による2つの鉄欠乏条件下でポプラ(hybrid aspen: Populus tremula x Populus tremuloides, T89)を栽培し、生育、葉のSPAD 値、および金属濃度を分析した。ポプラは石灰質土壌と鉄欠乏水耕栽培の双方において顕著な生育不良を示した。鉄欠乏条件の水耕栽培を始めて3週間後には、新葉に重篤なクロロシスが観察された。鉄欠乏ポプラの古葉では、SPAD 値が高いにも関わらず、その鉄濃度は鉄十分のポプラと比較して著しく低かった。この結果は、ポプラが古葉から新葉への優れた鉄の転流能力を有することを示唆している。新葉の亜鉛濃度は鉄欠乏ポプラで増加した。また、鉄十分の水耕栽培と異なり、鉄欠乏水耕栽培では水耕液のpHが時間とともに低下する傾向が見られた。ポプラは鉄を効率よく吸収するために、水耕液のpHを調整していると考えられる。さらに、鉄十分と鉄欠乏のポプラの根と葉における鉄ホメオスタシス関連遺伝子の発現を解析した。PtIRT1、 PtNAS2, PtFRO2, PtFRO5, PtFIT の発現が鉄欠乏の根で誘導された。PtYSL2 およびPtNAS4 は 鉄欠乏の葉で誘導された。PtYSL3 は 鉄欠乏の根と葉の両方で誘導された。これらの遺伝子は 鉄欠乏条件下でのポプラの鉄の吸収や転流機構に関与する可能性が示唆された。ポプラの鉄欠乏応答に関するこれらの知見に基づき、鉄欠乏耐性ポプラを作出、もしくは鉄欠乏条件下のポプラの栽培方法を改良できれば、バイオマス生産量が向上し、不良土壌の緑化や地球温暖化の解決へつながることが期待される。


(図1の説明)
正常土壌または石灰質土壌でのポプラ樹の生長、症状、葉面積。(a)移植後18日目の外観と生育状況。上の3ポットは正常土壌、下の3ポットは石灰質土壌。(b)移植後18日目の第4葉,第5葉,と最新第6葉の各々の葉面積(縦x横× 1/2 cm2)。(c)移植後43日目の植物の外観(d)移植後0日から45日までの草丈の推移。Cal1, Cal2, Cal3は石灰質土壌でのそれぞれのポットでの値、N1, N2, N3は通常土壌での値。(Student’s t-test. *P < 0.05; **P < 0.01)
     
(図2の説明)
鉄あり、または鉄なしでの水耕栽培でのポプラの生育と症状。
鉄欠処理35日後の植物の外観とクロロシス症状
(a)正面図(b)真上からの図。(c)生育27日後の、鉄十分条件下での正常緑葉と、鉄欠処理のクロロシス葉


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図1 ポプラの土耕栽培

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図2 ポプラの水耕栽培