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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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鉄の投与によるカンキツグリーニング病症状への改善効果

Date: 2018-09-14 (Fri)

鉄の投与によるカンキツグリーニング病症状への改善効果
二価鉄で病害症状軽減、治癒効果も
 
   広島大学 名誉教授 正岡淑邦氏
   
バイオステイミュラント協議会第一回講演会要旨から(2018年7月17日 於:東大農学部弥生講堂)
     
  
柑橘類の病害のひとつ「カンキツグリーニング病(CG病)」は、ミカンキジラミが病原体(Candidatus Liberibacter)を媒介する。栄養素を輸送する師管内に病原体が侵入すると発症し、樹勢が衰え、葉が黄化し枯死にいたる。治癒方法はなく、世界中の柑橘産業に深刻な打撃を及ぼしている。日本では1988年に沖縄県・西表島で確認され、西南諸島で広がった。気候温暖化で本土への飛来・侵入も危惧される。
    
 CG病を発症した柑橘の葉は、健全なものと比べ、特に全鉄濃度と水溶性鉄の低下が著しい。鉄不足は、光合成を行う葉緑体の合成を損なうことから、結果的に光合成ができず、成長が低下すると考えられている。植物は、鉄を根の表面にある鉄還元酵素で「二価鉄」へ変換して吸収する。
 
 このことから、CG病の治癒を目指し、一般的な鉄キレート材を根と葉に散布したが、効果は見られなかった。しかし、植物が吸収しやすい二価鉄資材を葉面に散布したところ、葉色の回復や、日が経つにつれて病原体の減少が確認でき、治癒した個体もあった。
   
 柑橘類でCG病に耐性を持つミカン科のゲッキツは、他のミカン科植物と比較して、鉄欠乏時に鉄還元酵素が大きく働いていることが判明した。鉄吸収能力とCG病のかかりやすさに深いつながりがあると示唆された。二価鉄資材の使用で、植物体内の鉄栄養状態が回復すればCG病の治癒の可能性が高まると考えられる。二価鉄が作用する仕組みは明らかになっていないが、二価鉄資材は、植物が鉄分を一定に保つ機能が病害で異状をきたした際のBS(バイオステイミュラント)資材として有効性が期待される。
       
(日本農民新聞2018年8月25日 より転載)