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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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アラビドプシスのbHLH100とbHLH101はFITから独立した経路で鉄ホメオスタシスを支配している

Date: 2018-09-26 (Wed)

アラビドプシスのbHLH100とbHLH101はFITから独立した経路で鉄ホメオスタシスを支配している

Arabidopsis bHLH100 and bHLH101 Control Iron Homeostasis via a FIT-Independent Pathway

Alicia B. Sivitz, Victor Hermand, Catherine Curie, Grégory Vert

Published: September 11, 2012

https://doi.org/10.1371/journal.pone.0044843

PLOS ONE | www.plosone.org 1 September 2012 | Volume 7 | Issue 9 | e44843

    

単子葉以外の植物は、不溶態の土壌中の鉄を可溶化するためにプロトンポンプ(AHA2)を発動し、次に3価鉄還元酵素(FRO2)を働かせて2価鉄にし、2価鉄トランスポーター(IRT1)を働かせて2価鉄イオンを細胞内に吸収する。これらの鉄の再可動化や吸収は転写因子(bHLH)によって支配されている。いくつかの研究によってアラビドプシスでは鉄吸収に関してFITは鉄欠乏応答における決定的な制御因子であるとされてきた。FITのLoss of function変異株は大量の鉄を水溶液で供給しないと芽生え段階で枯死する。FIT遺伝子は根のみで発現し鉄飢餓によって転写制御と翻訳後制御を受けるとされている。野生型の植物と比べて欠損株fit-3のプロモーターはより不活性なのでFITは自身で自動制御を行っていると提唱されている。


FIT以外には少数の転写因子が鉄欠乏応答に関係している。最近FITに制御されていない鉄欠乏応答性の多数の遺伝子を制御しているPYEと称するbHLH転写因子が同定された。

アラビドプシスでbHLHスーパーファミリー遺伝子に近縁の分岐群 Ibに属する4つの bHLH038, bHLH039, bHLH100 とbHLH101が低い鉄濃度にアップレギュレートされていることが分かったが,それらの機能はまだつかみどころがない。


これらの各遺伝子の loss-of-function変異株はどんな表現型変化も示さないので、相互に余剰(redundancy)なのだと思われた。根でのみ発現するFITと異なり、これら4つの遺伝子は根でも地上部でも広域に発現した。FITを単独で過剰発現させても根での鉄吸収に関わるFRO2 や IRT1の充分な発現の引き金にはならない。

しかし、FIT と bHLH038 か bHLH039とを一緒に発現させると、これらはFITとダイマーを形成してFRO2やIRT1の構成的な発現に導くことになった。であるからFITはbHLH038 とbHLH039と協奏的に働いて根における鉄欠乏応答を制御しているということを提案したい。しかし、bHLH038 と bHLH039が根の鉄吸収に関与しているということのloss of function法による最終的な確認はい未だしである。


根での遺伝子応答について bHLH038 や bHLH039の場合のアナロジーでbHLH100と bHLH101もFITと相互作用しているだろうと思われるが、いまはまだそういうモデルを支持するデータは得られていない。bHLH100 とbHLH101の詳細な生物的な役割に光を当てるために我々はFITの直接的なターゲットをin vivoでまず同定してみることにした。

bhlh100/bhlh101 loss-of-function変異株はFITがターゲットしている遺伝子(FRO2, IRT1などの)発現に何の影響も示さなかった。だからbHLH100 とbHLH101は FIT とは独立の作用を行っていると考えられる。

しかし、bHLH100 と bHLH101はこのダブル変異株であるbhlh100/bhlh101が典型的な鉄欠乏の特質であるクロロシスや生育阻害を示したので鉄飢餓に対して決定的な役割を果たしていると考えられる。

   bHLHやbHLH101を欠損させて、全ゲノム遺伝子発現の変化を調べると、これら2つの転写因子は多分、組織と細胞内小器官での鉄の分布に影響を与えながら鉄のホメオスタシスを支配していることが分かった。
   

(森敏)