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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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異なる デオキシムギネ酸/ニコチアナミン を含むお米の胚芽と胚乳の鉄と亜鉛の含量について

Date: 2018-10-06 (Sat)

異なる デオキシムギネ酸/ニコチアナミン を含むお米の胚芽と胚乳の鉄と亜鉛の含量について

Iron and Zinc in the Embryo and Endosperm of Rice (Oryza sativa L.) Seeds in Contrasting Deoxymugineic
Acid/Nicotianamine Scenarios

Pablo Díaz-Benito, Raviraj Banakar, Sara Rodríguez-Menéndez, Teresa Capell, Rosario Pereiro, Paul Christou, Javier Abadía, Beatriz Fernández and Ana Álvarez-Fernández

Frontiers in Plant Science | www.frontiersin.org 1 August 2018 | Volume 9 | Article 1190 doi: 10.3389/fpls.2018.01190
    
(要旨)

胚乳はお米の主要な消費部位であり、また植物組織から金属含量が高い胚乳への栄養素の移行を中継する。
   
イネのニコチアナミン合成酵素遺伝子(OsNAS1)/オオムギのニコチアナミンアミノ基転移酵素遺伝子(HvNAATb)
をイネで過剰発現させて、野生型イネとこれら6種類の遺伝子導入系統イネについて、胚芽や胚乳でのDMAとMAのレベルを変化させた場合に、それらの部位での金属分布がどう変化するかを検定した。
      
これらの遺伝子導入イネは異な3つの異なるDMA/NAシナリオで成り立っている。
  
(i)最初のシナリオでは、OsNASの過剰発現でNAレベルを増加させた場合は、DMA合成酵素であるHvNAATbが、無いか、低く発現しているので、DMAの方にNAが全部消費されるということがない。その結果、一定の濃度でNA, DMA, 亜鉛(Zn), 鉄(Fe)が付加されている。


(ii)2つめのシナリオでは、OsNASの過剰発現でNAレベルを高めても、同時にHvNAATbを過剰発現させると、NAからDMAへの合成が促進されるので、DMAとFeのみが胚乳と胚芽に集積する。
  
(iii)3つ目のシナリオは、NAからDMAへの合成の目的に必要なHvNAATbを過剰発現すると、OsNASの過剰発現でせっかく増強されたNAのレベルが絶たれるので、DMAとFeのみが胚乳と胚芽で富化される。

また、定量的LA-ICP-MSによって胚芽構造での金属分布のイメージでは、一番目のシナリオと2番目のシナリオで、Feの局在が変化し、この変化はZnではより少なかった。

異なるDMA/NAレベルがFeと Znの胚芽での移行に及ぼす役割について徹底的に議論した。
   
   
(結論)
  
上記シナリオ1か2で、遺伝子導入法でDMA濃度のみか、あるいはNAと共にDMAを増強すると、通説どおりに胚乳ではたぶんYSLトランスポーター群によってFe(III)-DMAの形で鉄が運ばれ貯蔵される
   
第1のシナリオのように、NAを増やすことによってDMAも増やすことになる場合は、付随的な事項としてZn(II)-NAのメカニズムが誘発され、胚乳での亜鉛の輸送と貯蔵が引き上げられる。
   
しかし第3のシナリオのようにDMAレベルが少ししか変化しないと種子中の金属含量には変化が起こらない。
   
以上の知見は、米自身の生物的含量強化戦略において異なるリガンドや輸送体を将来デザインするときに役立つだろう。
 
高いNA/DMA含量の種子はたとえFe含量に変化がなくても哺乳動物や人間にとって鉄の利用性を向上させるということを忘れてはならない。(Zheng et al., 2010; Eagling et al., 2014).
    
我々の研究成果は、植物組織において目的の栄養素と関連する代謝産物を詳細に局所的に定量したので、主要穀物の生物的強化のための、より巧妙な戦略の応用の手助けになるだろう。



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お米の縦切り断面の鉄染色像

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胚乳と胚芽における導入したOsNAS遺伝子またはHvNAATb遺伝子とその産物(NAとDMA)と鉄と亜鉛の模式図