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-植物鉄栄養研究会-


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19生都営法特第463号
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アラビドプシスでのbHLH 転写因子FITと ETHYLENE INSENSITIVE3/ETHYLENE INSENSITIVE3-LIKE1の相互作用を調べたところ、鉄獲得制御とエチレンシグナルの間には分子レベルでの連携があることが分かった

Date: 2018-11-05 (Mon)

アラビドプシスでのbHLH 転写因子FITと ETHYLENE INSENSITIVE3/ETHYLENE INSENSITIVE3-LIKE1の相互作用を調べたところ、鉄獲得制御とエチレンシグナルの間には分子レベルでの連携があることが分かった

Interaction between the bHLH Transcription Factor FIT and ETHYLENE INSENSITIVE3/ETHYLENE INSENSITIVE3-LIKE1 Reveals Molecular Linkage between the Regulation of Iron Acquisition and Ethylene Signaling in Arabidopsis

Sivasenkar Lingam, Julia Mohrbacher, Tzvetina Brumbarova, Thomas Potuschak,
Claudia Fink-Straube, Eddy Blondet, Pascal Genschik, and Petra Bauera

The Plant Cell, Vol. 23: 1815–1829, May 2011,

(要旨)

植物のストレスホルモンであるエチレンは鉄獲得を促進するが、この分子機構はまだ未知である。
 
ここで我々はエチレンシグナルとFITの間には直接的な分子レベルの連携があることを示す。
 
我々はFITと直接相互作用するパートナーとしてETHYLENE INSENSITIVE3 (EIN3) とETHYLENE INSENSITIVE3-LIKE1 (EIL1)を同定し、それが生身の植物での物理的相互作用であることを実証した。
 
我々はein3 eil1(2重変異株)のばあい、その転写産物(transcriptome)が野生株の場合と比較して、鉄欠乏条件下で通常の鉄栄養条件下よりもはるかに影響を受けることを示した。
  
FITが十分に蓄積するためにはEIN3/EIL1経由のエチレンシグナルが必要であった。
  
Aminoethoxyvinylglycine投与やein3 eil1変異株では
FITレベルが減少した。

エチレンシグナル下ではFITはプロテアゾームによる分解に対して低感受性になっており、これはおそらくFIT と EIN3/EIL1が物理的に絡み合っているためであると考えている。
  
このようにして増加したFITが鉄獲得に必要な遺伝子群のハイレベルでの発現を招来しているのである。
  
かくのごとく、エチレンは転写レベルと転写後レベルで鉄欠乏応答の引き金を引くシグナルの一つなのである。


(下図の説明)
FITとEIN3/EIL1の相互作用を説明するモデル
FITは野生型植物の鉄欠乏条件下か、それとも鉄添加とは独立して遺伝子組み換えFIT OX 植物内でも根の細胞で生産される。(FIT 遺伝子, FIT Ox コンストラクト, FIT タンパクらは薄い灰色の楕円形で示している)
FITの活性は制御されている。鉄欠乏条件下ではFITは活性化され下流のIRT1やFRO2などの遺伝子の鉄欠乏発現応答を誘導する。
FITタンパクはbHLH038 と bHLH039とダイマーを形成することが明らかになっている。(図では描写していないが)
IRTとFRO2の遺伝子発現レベルがFITタンパクのレベルと相応するので、我々はFITタンパクの極く少量のプールが活性化状態であり、大容量のプールが非活性型であると提唱する(矢印と楕円の濃淡で示している)
我々の実験結果から、細胞内における非活性型や活性型のFITタンパクは細胞内では不安定であり、分解されうる。(図では、明るい灰色の白い影の楕円に向かう矢印で示している)
鉄欠乏はエチレン生産に向かう。エチレンシグナル経路上で活性化されたEIN3/EIL1が物理的にFITと相互作用し、FITがプロテアゾーム分解されるのを阻止している。(EIN3/EIL1は濃い灰色の楕円を示す:FITのEIN3/EIL1との結合はFITのbHLHドメインとは関係しない)
我々のモデルではEIN3/EIL1が最初にFITと結合してIRT1 とFRO2を誘導するのではなく、むしろ、EIN3/EIL1はFITを安定化させることによって、鉄獲得能を増幅させるという考えている。


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エチレンシグナルとFITの相互作用モデル