いま、すべてを総括すると:鉄欠乏応答制御について
この論文はacceptされているが、まだ出版されていないものです。
双子葉植物の鉄栄養生理を分子レベルで解明されてきたものの、総説です。
いま、すべてを総括すると:鉄欠乏応答制御について
All Together Now: Regulation of the Iron Deficiency Response
Nabila Riaz & Mary Lou Guerinot
Guerinot@Dartmouth.edu
Nabila.Riaz.GR@dartmouth.edu
(要旨)
鉄は植物にも動物にも必須の微量元素のひとつである。人の鉄欠乏では貧血がもっとも有力な栄養障害である。多くの人は主要な鉄源として植物を基本としているが、植物は鉄源の食事としては貧困である。であるから、鉄がどのようにして吸収され、移行するのか、鉄がどのようにして鉄欠乏に適応しているのかに関してそのメカニズムをよりよく理解することが極めて必要である。鉄は、光合成、呼吸などのキーとなる細胞の機能に関わっている。鉄の吸収、移行、貯蔵などが変動することは植物の生長ばかりでなく生産物の収量や質にも影響を及ぼす。過剰鉄は高い還元活性ゆえに毒性を持つ。だから植物は厳密に、鉄の吸収、分布、分配を制御している。本論文では、植物が鉄欠乏を経験しているとき以外に鉄吸収を阻止するのに必須の転写制御や翻訳後レベルでの制御機構についてレビューする。我々はアラビドプシの鉄吸収制御に必須のFITを含むbHLH転写因子群の制御系ネットワーク、サブグループIb, サブグループIVc, URI(bHLH121)について議論する。さらに植物の適切な吸収を保証するために活性化したり阻害したりするこれらの転写因子の制御因子についても述べる。
以下
図1の説明:
アラビドプシスの鉄吸収機構
アラビドプシスは環境からの鉄獲得を容易にするために還元を基本とした3段階の戦略をとっている。まず、不溶性の3価鉄がプロトンATPaseであるAHA2によって根圏を酸化されて可溶化される。多面的薬剤耐性タンパク質(PDR9)によってFe3+をキレートするフェノール性酸が分泌される。
2段階目としては、可溶化してキレート化した3価鉄イオンを、3価鉄・キレート還元酵素FRO2によって2価鉄イオンに還元する。最終段階として、2価鉄イオンを高親和性2価鉄イオントランスポーターIRT1によって細胞内に取り込む。
図2の説明
FITを経由した鉄欠乏応答の制御。
このモデルは 鉄獲得(黒い直線で示している)を制御するタンパク質―タンパク質相互作用を媒介してFIT と直接相互作用するたんぱく質を描写したものである。
FITがlb bHLH転写因子群のサブグループであるMED16、EIN3/EIL(MED25はMED16とEIN3/EIL1と相互作用する)と結合し、CIPK11によりリン酸化されることによって、鉄欠乏応答が「正」に制御され、鉄欠乏条件下(青い矢印で示している)で、FRO2遺伝子やIRT1遺伝子が活性化される。
FITがDELLAとZAT12と結合するとlb bHLHsのサブグループ群とFITとの結合が阻止され鉄吸収遺伝子群(緑の矢印で示している)の転写が阻止される。しかし、IVa bHLH転写因子群とFITは相互作用し続けてFITはプロテアゾームによる分解に向かう(赤い矢印)。略記:Fe,iron; Cs2+,Calcium ion; ET,ethylene; GA, gibberellic acid; ROS,reactive oxygen species; JA,Jasmonic acid ; red circle, calcium ion; P, phosphorylation. 赤い薄い線はシグナル伝達系路;丸い矩形はタンパク質;破線の円は核。
図3の説明:
アラビドプシス・タリアナのbHLH依存性鉄欠乏転写制御。
鉄欠乏の間URI(bHLH121)はリン酸化されてIVc bHLH転写因子のサブグループであるbHLH34, bHLH104,bHLH115, bHLH105と相互作用する。これらのヘテロ二量体は Ib bHLH転写因子のサブグループであるBTS,BTSL,PYE(青色矢印で表示している)の発現を制御している。FITとIb bHLHのサブグループとのヘテロ二量体は鉄獲得遺伝子IRT1と FRO2の発現を誘導する。PYEはよく知られた転写のリプレッサーであり、鉄の輸送と局在に関係した遺伝子の発現を阻害している。BTSや BTSLも鉄欠乏で誘導される、鉄欠乏に対する「負」の転写因子である。鉄十分条件下ではBTSとBTLSは利用可能な鉄と結合してbHLHのサブグループであるIVc,Ib,URIおよびFIT転写因子などのメンバーと相互作用し、自身のプロテアゾーム分解(赤い矢印で示す)を起こす。このようなBTLと BTLSによる鉄依存性代謝回転は、鉄過剰による毒性効果を阻止するための厳密な鉄欠乏応答制御にとって非常に重要である。
図1