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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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激甚な鉄欠乏処理によりクラミドモナスの脂質生成が促進される

Date: 2021-05-10 (Mon)

以下の論文は、クラミドモナスがバイオ燃料の素材に使われていることから、クラミドモナスを鉄欠乏にしたら脂肪酸類をより増産できるかもしれないという大胆な研究である。図らずも「鉄」と「バイオ燃料」が結び付いた。


激甚な鉄欠乏処理によりクラミドモナスの脂質生成が促進される

Enhanced Lipid Production in Chlamydomonas reinhardtii Caused by Severe Iron Deficiency
Elsinraju Devadasu and Rajagopal Subramanyam*

Front. Plant Sci., 13 April 2021 | https://doi.org/10.3389/fpls.2021.615577

(要旨)
微細藻類はバイオ燃料である脂質の生産源に使われる。多くの藻類はストレス条件下で中性脂質を生産する。
ここでは単細胞藻類であるクラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii )を用いて鉄制限培養条件下での脂質の集積について調べた。
激しい鉄欠乏ストレス下では細胞は生長をなんとか維持しながら有意に、脂質特にtriacylglycerols (TAGs)を集積した。
半定量的フーリエ変換赤外線スぺくトロメトリー (FTIR)分析によれば、対照区に比べて鉄欠乏ストレ下でのスクラミドモナスは炭化水素と脂質含量を共に増加することがわかった。
フローサイトメトリーと薄層クロマトグラフィー分析によれば、激しい鉄欠乏条件下での細胞は鉄十分細胞に比べて約4倍のTAGを誘発蓄積した。
このTAGの集積は主としてクロロプラストの脂質がdiacylglycerol acyltransferase (DGAT2A)が過剰に発現することによって分解された。
さらに、液体クロマトグラフィー・質量分析によってC16:0, C18:2, C18:3の脂肪酸類(FAs)のレベルが有意に促進されていた。
これらの結果は鉄欠乏ストレスがTAGsの急速な集積の引き金となることを意味している。
鉄欠乏処理によるこれらの脂質生産性の向上という知見は、もしわれわれが光バイオリアクターの生産条件を段階的に拡大していけば、藻類バイオ燃料の効率的な生産に貢献するかもしれない。



図1。Chlamydomonas reinhardtii細胞の鉄十分条件と鉄欠乏条件下での顕微鏡観察
(A)Nile Red (NR)染色による脂質小滴の局在とそのサイズの共焦点蛍光イメージ。
(B)透過型電子顕微鏡(TEM)による鉄欠乏と、さらに激しい鉄欠乏条件下での細胞内における脂質の集積のイメージ像。シンボルはTh, チラコイド; L,脂質小滴; N, 核; S, デンプン.

  

図2。フーリエ変換赤外線スペクトル解析(FTIR)による、クラミドモナスの対照区と鉄欠乏条件区での炭素集積
(A)細胞のフーリエスペクトルの例
(B)栽培4日間経過後での脂質対アミドIの比
(C)鉄欠乏栽培条件下での脂質対アミドIの比。
以上各3連。
 
 
図3。対照区と鉄欠乏区のクラミドモナスの全トリアシルグリセロール(TAG)の薄層クロマトグラフィー分析と脂肪酸類の半定量的な分析
(A)脂質は等量の乾燥細胞重(dws)から抽出し、同じ量をそれぞれのレーンに負荷した。
(B)対照区と鉄欠乏区での細胞からのTAGsバンドの半定量的な分析
データは三連で乾燥重当たりの%で示した。

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図1

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図2

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図3