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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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アラビドプシスのエチレン非感受性変異株ein2-1 と ein2-5のいくつかの鉄欠乏応答性

Date: 2021-06-10 (Thu)

アラビドプシスのエチレン非感受性変異株ein2-1 と ein2-5のいくつかの鉄欠乏応答性
  
Comparative Study of Several Fe Deficiency Responses in the Arabidopsis thaliana Ethylene Insensitive Mutants ein2-1 and ein2-5
  
Macarena Angulo, María José García, Esteban Alcántara, Rafael Pérez-Vicente and Francisco Javier Romera
  
Plants 2021, 10, 262. https://doi.org/10.3390/plants10020262
  
(要旨)
鉄(Fe)は光合成、呼吸、窒素同化などの必須の代謝過程に関与する必須元素である。
鉄はほとんどの土壌中には十分に存在しているが植物による利用性が、特に石灰質土壌では低い。
 
鉄欠乏は鉄欠乏クロロシスを誘起し、影響を受けて作物収量が低下する。
植物は鉄獲得のために根では形態的・生理的応答を発達させている。
アラビドプシスなどのdicot(Strategy I)での鉄欠乏応答を誘起するのにはエチレン(ET)と一酸化窒素(NO)が関係している。
 
本報告で我々はアラビドプシスの先端根近接根毛において、鉄獲得に関わる主な遺伝子FRO2、IRT1とマスター転写因子であるFITについて、2種類のアラビドプシスの究極のET誘導経路の成分であるEIN2の変異株であるein2-1 と ein2-5の比較実験を行った。
 
得られた結果は2つの変異株共に鉄欠乏条件下でも、ET前駆体である1-aminocyclopropane-1-carboxylate (ACC)で根毛を処理しても、NOドナーであるS-nitrosoglutathione (GSNO)で処理しても根端近接根毛を誘導しなかった。
 
ところが、二つの変異株共に鉄獲得遺伝子FRO2とIRT1(とFIT)を鉄欠乏条件下で誘導した。
 
しかしこの転写誘導は変異株をエチレン(ACC,やエチレン合成酵素阻害剤Co)で処理した場合と異なっていた。
  
以上のことからエチレンとNOがEIN2を経由して根端近接根毛と鉄獲得遺伝子の制御に関わっていることが明らかである。
  
これらの結果を、エチレンとNOがともに鉄欠乏応答の制御の役割を担っていることを考慮に入れて考察した。
  
  
(図1の説明)
アラビドプシスの鉄獲得遺伝子FRO2とIRT1の制御に関わるEIN2経由のエチレンの役割に関するモデル。
 
鉄欠乏は根でのエチレン(ET)生成を増幅する。
エチレン存在下ではEIN2タンパクのCEND部分が切断されて核に移行しEIN3/EIL1 TFsの転写活性を高める。(詳細は緒言に記述)
これらの後者の転写因子(TFs)が集積すると、エチレン応答(たとえばFITの転写を向上させるなど)の引き金を引き、その結果FRO2 と IRT1の転写をアップレギュレートする。
FIT、FRO2 、 IRT1はまた、ほかの“非正規の”エチレンシグナリング経路、AHPs と ARRs、または、ほかのホルモン類、例えばオーキシン(点線)、によっても引き金を引かれ得る。
FITに加えるに、例えばERF1などの転写因子群を通してもFRO2 や IRT1がアップレギュレートされ得る。
図中の略号: AHPs, Arabidopsis Histidine-containing Phosphotransmitters; ARRs, Arabidopsis Response Regulators; ER, Endoplasmic Reticulum; ERF1, Ethylene Response Factor1; ET, Ethylene; NM, Nuclear Membrane; TFs, Transcription Factors.
 
 
 
(図2の説明)
アラビドプシスの野生型Columbiaとエチレン非感受性変異株ein2-1 と ein2-5の根におけるNO集積に対する、鉄欠乏処理とACC処理の効果。
 
植物は完全栄養培地で育てた。
適当な時期にいくつかのものは40 µM Fe-EDDHA (Fe40)、 10 µM Fe-EDDHA (Fe10)またはFe無しの完全培地に一日間(–Fe 1d)か二日間(–Fe 2d)移した。
Fe10処理植物には最終的に1 µMになるようにACCを投与し、2 h [Fe10+ACC (2 h)] か24 h [Fe10 + ACC (24 h)]処理した。
NOはNO-感受性蛍光色素 DAF-2 DAで可視化した。
ACC処理や鉄欠乏で根の根端下の部位にNO集積の局在が見られることに注目されたい。
  
  
(図3の説明)
鉄十分のアラビドプシス野生種Columbia 、エチレン非感受性ein2-1 と ein2-5に対してACC とGSNOが根端下の根毛の発達に及ぼす影響。
 
植物は10 µM Fe-EDDHA入りの完全培地で育てた。そのうちのいくつかはACC (1 or 10 µM 終濃度) または GSNO (100 or 500 µM 終濃度)で処理した。その後、根を切断し、toluidine blue (0.05% w/v)で染色した。立体顕微鏡で撮影した。
 


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図1

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図2

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図3