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-植物鉄栄養研究会-


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19生都営法特第463号
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X線顕微鏡により、植物の細胞、組織、器官のマルチスケール・高分解能・3次元(3D)画像化が可能である

Date: 2021-10-13 (Wed)

X線顕微鏡により、植物の細胞、組織、器官のマルチスケール・高分解能・3次元(3D)画像化が可能である
  
X-ray microscopy enables multiscale high-resolution 3D imaging of plant cells, tissues, and organs

Keith E. Duncan , Kirk J. Czymmek , Ni Jiang , August C. Thies and Christopher N. Topp
    
 doi:10.1093/plphys/kiab405 PLANT PHYSIOLOGY 2021: 0: 1–15
   
(要旨)
植物学の世界では、植物の組織や器官を相互の形態学的状況下で完全な内部解剖所見を把握することは非常に重要な未解の挑戦的課題である。
 
植物の成長と発達は本来的に多重スケール的であるにもかかわらず、古典的な光学顕微鏡的、蛍光顕微鏡的、電子顕微鏡的観察手法は、その対象が小さな平板な資料であり、それらは直接的な空間情況が欠落しており、相互の植物の微細構造の極小部分を代表しているに過ぎない。
  
我々は技術的に発展した研究室レベルでのX線顕微鏡:X-ray microscope (XRM)を用いて、多段階の、高分解能の、3次元(3D)容量で、生身の植物サンプルを、細胞レベルから植物個体レベルまで、これまでのイメージのギャップを橋渡しすることを示す。
  
一つのサンプルの連続画像はミクロン以下の3D容量を示し、それらは明確な前後関係を照合できる低倍率の走査像とともに収蔵される。
  
我々が向上させた手法による高品質の3D画像容量データは精妙で効率的なコンピュータ的な画像の切り出しが容易である。
  
サンプル調整の進歩は多様な相関部位のイメージングの作業の流れを可能にする。すなわち、一個の樹脂固定植物サンプルをXRMで走査して、3Dの細胞レベルでの図解を作成し、興味がある細胞下領域を同定してズームインして、より高分解能の走査顕微鏡画像を得るのである。
  
総括すると、我々はここにXRMを用いて、非常に多くの経済的にも基礎科学的にも重要な植物体の3D植物形態を、多重スケール・多モード分析する手法を紹介する。

 
 
図1(上).
分裂組織生物学。エノコログサSetaria viridis(A)とトウモロコシZea mays (E)の新芽の分裂細胞(矢印)。周りの葉鞘に囲まれた中で生のまま存在しているにも関わらずいかにしてこの重要な組織の発達が3D-高分解能で可視化され得るのかを図解している。
S. viridisの花房の構造をスキャンして(B)、ボリュームレンダリング(C)や分割化して個々の小穂(s)と刺毛(b)を表示した。
X―線顕微鏡のトウモロコシの穂の原基(F)のイメージング。ボリュームレンダリング(G)発達しつつある花序(im),小穂ペア(spm),小穂(sm),花の原基(fm)。すべてのスケールバーは200mm.
    
図1(下).
花の解剖構造と発達の多重スケールイメージング。
Multiscale imaging of floral anatomy and development.
固定してコントラストを増強したダイズ(Glycine max)の生殖器官の構造。
Fixed and contrast-enhanced reproductive structures of Glycine max.
A, 脇芽(Aの挿入写真)をリンタングステン酸でコントラスト化した。完全な生の姿をXRMでイメージ化したもので、この複雑な構造を詳細に3D化した。 スケールバーは300mm。
B, 一本の発達最中の花のボリュームレンダリング。花粉が充填された葯(an), 胚珠(ov), 互いに斑点状の表層(st)の3D空間画像。スケールバーは200mm.
C, 発達しつつある胚珠のボリュームレンダリング; スケールバーは200mm.
D, (C)からの胚珠の高倍率走査像。卵細胞(ec), 核の極性融合(fp), 2つの助細胞(sy).スケールバーは100mm.
  
  
図2(上).
根の生物学
A-C, トウモロコシの根端細胞明瞭な細胞境界を可視化するために根を固定してコントラストを増強している:表皮(ep),皮層(cx),内皮(en),維管束(vb)を細胞(B)と組織(C)レベルでコンピューター画像から切り出している。スケールバーは200mm.
D, 根端の縦断面。そこでは根冠(rec),静止中心(qc),分裂域(mz),伸長域(ez)で核が容易に可視化されている。スケールバーは200mm.
E, V8トウモロコシ地上部第2節位の稈をLugol’s iodineで染めてコントラストをつけると、 尖った根原基(★印)とよくコントラストされた維管束が観察される。
 
図2(下).
植物と微生物の相互作用
A, ダイズの根上のBradyrhizobium japonicum根粒の低倍率走査電顕 スケールバーは500mm
A-D, (A)の根粒の高分解能走査電顕と画像の切り出し。コントラストがよくとれた核と細胞壁がsymbiosomesと維管束梢の区分を可能にしている。スケールバー(B)は150mm,(C)は350mm.
EとF, Rhizophagus irregularisのトウモロコシ根への寄生、樹枝状態(arbuscules)(a)と黄色に区分された細胞間菌糸(矢印)。スケールバーは200mm.
Gと H, Gigaspora margarita胞子の生の(矢印G)ボリユームレンダリング。胞子らは色付け区分されている(H)。スケールバーは500mm.
I, ムラサキバレン菊(Echinace)の葉面のトライコーム(t)とカビの分生子(c)と分生子柄;スケールバー150mm.
  
     
図3.
N. benthamiana の葉の多重相関X-線と電子顕微鏡。
OTO染色プロトコールに従って樹脂包埋したN. benthamianaの葉は、高分解能XRM(C,A,B,緑色)に対応する高コントラストの3D(A)と2D(B)のXRM視野 を提供している。
この方法で、柵状組織(P)や海綿状葉肉や維管束(v)を定義する細胞壁や、上皮(ue)や下皮(ue)の表皮細胞の3D画像の詳細が提供され、以下の関連するSBFEM (C, EM と重ねた像, 黄色い囲い部分)による豊富な内容が明らかにされた。すなわち、中間分解能の柵状組織(D,(C)の黄色い囲い部分に対応する)が細胞内器官、デンプン(s)、アポプラスト(a)や、高分解能による内容物(E,(D)の赤いボックス)にあるグラナ(矢印)やプラストグロビュール(矢印)である。
海綿状葉肉(F)の高分解能のXRMはクロロプラスト(c)とデンプン粒(矢印)を示している。
XRMデータのデイープラーニングによって、核(濃青色)、デンプン粒(淡青色)、細胞質/クロロプラスト(紫色)、細胞壁(緑色)が3D区分/可視化(G)された。
スケールバーは100 mm (A–C, G), 10 mm (D), 500 nm (E), 20 mm (F).

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(図1)上、下

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(図2)上、下

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(図3)