トウモロコシのNAAT、DMAS、TOM、ENA遺伝子ファミリーのゲノムワイド解析から、これらが鉄のホメオスタシスを媒介する役割が示唆される
以下の論文は長年かけて我々東大グループが発見して同定したイネのムギネ酸やニコチアナミンの生合成酵素の遺伝子や、これらの化合物の細胞内への吸収や細胞外への排出のトランスポーターが、トウモロコシのどの染色体の遺伝子座に座上しているかを決めて、それ等の遺伝子が鉄の有無や、どの組織や細胞で発現しているかなどを調べたものである。いわゆる<銅―鉄主義>の方法を、<イネートウモロコシ主義>で行ったものである。が、トウモロコシ生産という実際の育種技術のための基礎的知見を明らかにしたものであるので、ここに紹介する。
トウモロコシのNAAT、DMAS、TOM、ENA遺伝子ファミリーのゲノムワイド解析から、これらが鉄のホメオスタシスを媒介する役割が示唆される
Genome-wide analysis of the NAAT, DMAS, TOM, and ENA gene families in maize suggests their roles in mediating iron homeostasis
Xin Zhang, Ke Xiao, Suzhen Li, Jie Li, Jiaxing Huang, Rumei Chen, Sen Pang & Xiaojin Zhou
BMC Plant Biology volume 22, Article number: 37 (2022)
(概要)
背景
ニコチアナミン(NA)、2′-デオキシムギネ酸(DMA)、ムギネ酸(MA)は植物における鉄の取り込みと輸送に必要なキレート剤である。イネ(Oryza sativa)、コムギ(Triticum aestivum)、オオムギ(Hordeum vulgare)では、ニコチアナミン・アミノトランスフェラーゼ(NAAT)、2′-デオキシムギネ酸合成酵素(DMAS)、MAのトランスポーター(TOM)、NAの排出トランスポーター(ENA)が鉄分の吸収と輸送に関係しているが、トウモロコシ(Zea mays L. )ではこれらのファミリーが完全に特定、包括的解析はされていない。
研究成果
ゲノムマイニングにより、ZmNAAT 5個、ZmDMAS 9個、ZmTOM 11個、ZmENA 2個の遺伝子を同定した。RNAシーケンスおよび定量的リアルタイムPCR解析により、これらの遺伝子は様々な組織で発現しており、鉄分の多い環境と少ない環境で異なる反応を示すことが明らかになった。特に、鉄欠乏は ZmDMAS1, ZmTOM1, ZmTOM3, ZmENA1 の発現を促進した。さらに、トウモロコシの葉緑体プロトプラストで緑色蛍光タンパク質融合体を一過性に発現させ、タンパク質 の細胞内局在を決定した。ZmNAAT1, ZmNAAT-L4, ZmDMAS1, ZmDMAS-L1は細胞質に、ZmTOMsとZmENAsは細胞膜、内膜、小胞に局在していることがわかった。
結論
この結果は、ZmNAAT、ZmDMAS、ZmTOM、およびZmENAファミリーのメンバーの異なる遺伝子発現プロファイルと細胞内局在は、異なる組織と異なる外部条件下でフィトシデロフォア代謝を特異的に制御することを可能にし、トウモロコシの鉄ホメオスタシスに光を当て、鉄分の多いトウモロコシ品種の育成に候補遺伝子を提供すると示唆された。
以下、下図の説明
(図1 )
トウモロコシのNAAT、DMAS、TOM、ENA遺伝子の染色体上の位置。同定された遺伝子の位置は、トウモロコシのゲノム上にマッピングされた。染色体の長さ(bp)と各遺伝子の位置(bp)は、それぞれ染色体の下側と左側に示されている。緑、青、紫、赤の線は、それぞれZmNAAT、ZmDMAS、ZmTOM、ZmENA遺伝子を示す。
(図 4)
異なる鉄処理に対する ZmNAAT、ZmDMAS、ZmTOM、および ZmENA 遺伝子の発現プロファイル。トウモロコシ苗を標準ホーグランド溶液で 3 葉期まで栽培した後,0 μmol/L および 500 μmol/L の Fe を含むホーグランド溶液に移し,それぞれ欠乏(Fe--)および過剰(Fe++)処理 を行った。処理後0時間、24時間、48時間、96時間にシュート(sh)および根(Root)を収穫した。相対的な遺伝子発現を正規化するためにトウモロコシの Actin1 を使用した。エラーバーは標準偏差を示す。
(図 7)
トウモロコシ中葉プロトプラストにおける ZmNAAT、ZmDMAS、ZmTOM および ZmENA タンパク質の細胞内局在。各遺伝子のC末端にGFPを融合し、融合タンパク質をmcherry融合ERマーカーと共発現させたトウモロコシ葉肉細胞プロトプラスト。GFPシグナルは緑、ERマーカーは赤、クロロフィル自家蛍光(Chl)は青で示した。画像は共焦点顕微鏡で得られたもので、z-tackedとマージされたチャンネルのシングルオプティカルスライドの両方が示されている。GFPの細胞質局在をコントロールとした。スケールバーは10μm1.
図1
図4
図7