WINEP

-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
転載希望時は連絡先まで

アポロ月面のレゴリスで栽培された植物には、ストレスに関連するトランスクリプトームが存在し、月探査の展望を知らせている

Date: 2022-06-10 (Fri)

この論文では、アポロ計画で月面から採取したレゴリスと呼ばれている鉱物上でのシロイヌナズナの生育を紹介している。すべて対照区として用いた地球の土壌よりも生育が劣悪であった。乾燥ストレス、塩類ストレス、アルミ過剰ストレス、鉄欠乏ストレスで発現する遺伝子を検出している所が面白いので訳した。一番下の表参照。


アポロ月面のレゴリスで栽培された植物には、ストレスに関連するトランスクリプトームが存在し、月探査の展望を知らせている。

アンナ・リサ・ポール、スティーブン・M・エラルド、ロバート・フェルル
1 Interdisciplinary Center for Biotechnology Research and Horticultural Sciences Department, University of Florida, Gainesville, FL, USA. 2 Department of Geological Sciences, University of Florida, Gainesville, FL, USA. 3 UF Research and Horticultural Sciences Department, University of Florida, Gainesville, FL, USA.

COMMUNICATIONS BIOLOGY | (2022) 5:382

(要旨)
 
植物が他の惑星での人間の生命維持能力をどの程度高めることができるかは、植物が地球外の環境でその場限りの資源を使って成長することができるかどうかにかかっている。
我々はアポロ11号、12号、17号のサンプルを用いて、陸上植物シロイヌナズナが多様な月のレゴリスで発芽・生育することを示した。
しかし、その結果は、成長が困難であることを示している。月のレゴリスの植物は発育が遅く、多くの植物が重度のストレス形態を示した。
さらに、月の土壌で育ったすべての植物は、塩、金属、活性酸素種に対する植物の反応と同様に、イオン性ストレスを示す遺伝子を差動的に発現していた。
したがって、月のレゴリスの原位置は、月の生息地での植物生産に有用であるが、良質の基質とは言えない。植物と月のレゴリスの相互作用をさらに解明し、緩和することで、月面基地での生命維持に月のレゴリスを効果的に利用できるようになる可能性がある。


(結果と考察)(:植物の生育状態の部分のみ翻訳した)
 
3種類の月レゴリス供給源における植物の生育。
アルテミス月探査科学プログラムの一環として、また将来の持続的な月面居住のために、月のレゴリスを利用して植物を栽培する可能性について考察するため、アポロ計画11、12、17から帰還した月のレゴリスサンプルを少量入手し、植物の成長を評価できる48ウェル実験プレートを用いた小規模システムを開発した。
野生型Columbia-0(Col-0)種子を月レゴリス表面に直接播種し、発育した根が月レゴリス全体に接触するように成長することを確認した。
3種類の月レゴリスとJSC-1A月模擬物質の900 mgのわずかな試料を、地下灌漑システムを備えた48ウェルプレート4枚に配置した。
シロイヌナズナの種子を播種した後、個々の水やりトレイに入れたプレートを透明な通気性のあるガラス栽培ボックスに移し、安全な植物育成室で育成灯下に設置した。
通気性のあるガラス栽培ボックスで植物を栽培すると、空気の流れが少なくなるが、無菌室とは対照的に、人間が住む月の居住区に似た開放的な実験環境を模擬することができる。
植え付け後48時間から60時間の間にすべてのサンプルで容易に発芽し、すべての月の苗は正常な茎と子葉を示した(図2a)。水和レゴリスと完全に接触しても、初期の空中への発生に必要な一連の複雑なシグナル伝達を妨害するものはないことが示された。
6日目から8日目にかけて、各植物を間引きし、1ウェルに1株ずつ残した。
月面の試料から間引かれた植物の根は、JSC-1Aから間引かれた植物と比較して発育不良であり(図2b)、月のレゴリスでは根の成長が相対的に抑制されていることが示された。
また、8日目以降の地上部の成長・発達は、JSC-1Aに比べて月試料では遅くなり、ばらつきが大きくなった(図2c)。
各月のレゴリスサイトの個々の植物の連数植物にはばらつきがあったが、植物の発達には月のサイト特有の傾向が見られた。
また、全植物の成長速度を毎日モニターし、トップビュー写真から葉の上部空間への広がりを定量化した。JSC-1Aの16個のレプリカの間では、成長速度や形態にほとんどばらつきがなかった。
JSC-1Aの複製と比較して、月の植物はすべて拡大葉の展開に時間がかかり、時間の経過とともにロゼット径が小さくなり、一部は植物ストレスの典型的な指標である重度の発育不良と深い色素沈着がみられた。
また、月面のレゴリスでは、JSC-1Aの植物とほぼ同じように発育する植物はわずかだった(図2b)。
また、アポロ11号のレゴリスはアポロ12号や17号のレゴリスよりも生育が悪く、JSC-1Aはどの月のレゴリスよりも生育速度が速かった。

photo

photo