WINEP

-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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プロテオゲノミクスによるシロイヌナズナゲノム中の新規コード領域の発見

Date: 2022-08-11 (Thu)

以下もISINIPの講演要旨からの翻訳である。ここでのべられている台湾の Wolfgang Schmidt一派が発見したと称している「地上部と根で38と37の新規鉄応答性コード領域」については、いずれ論文として発表されるものと思われる。
  
  

プロテオゲノミクスによるシロイヌナズナゲノム中の新規コード領域の発見

Isabel Cristina Vélez-Bermúdez, Wolfgang Schmidt
台湾中央研究院植物微生物生物学研究所、台北、台湾
電子メール : icvb@gate.sinica.edu.tw

遺伝子型と表現型の関係を理解することは、生物学的メカニズムを理解し、植物のストレス応答の分子基盤を解明するために不可欠である。プロテオゲノミクスは、プロテオミクスとゲノミクスを融合し、ゲノムアノテーションを向上させることで、ゲノム変異の影響をタンパク質レベルで比較し、機能的に研究するための重要な基盤である。
ここでは、RNA-seqによるmRNAとiTRAQによるタンパク質の定常状態のプロファイリングからなるマルチオミクスアプローチを紹介する。また、PUROPlant(Puromycin-associated nascent chain proteomics for plants)と呼ばれる、新たに合成されたタンパク質へのビオチン化ピューロマイシンの組み込みに基づくアプローチにより、活発に翻訳されたmRNA(Ribo-seqによる)および新生ポリペプチドをカタログ化する。) PUROPlantは私たちの研究室で開発された新しい方法で、5,000以上のユニークなタンパク質に対応する新生ペプチドを同定することができ、トランスラトームのタンパク質レベルのスナップショットを提供することができる。様々なプロファイリング手法から得られたデータベースと比較した結果、地上部では965個(根では1,211個)の翻訳されたと考えられる新規領域が発見され、そのうち75個と65個がそれぞれ地上部と根のLC-MS/MSベースのペプチドデータによってサポートされていることが明らかになった。
発現レベルに関して環境応答性のある新規領域の同定原理を証明するために、植物を短期間の鉄欠乏にさらすと、鉄欠乏の影響を受けることがわかった。鉄欠乏反応の翻訳制御はプロテオーム変化の大部分を占めると推定されているが、細胞の鉄ホメオスタシスを再調整するために遺伝子活性を調整する転写後制御機構はまだほとんど分かっていない。私たちのプロテオゲノミクスパイプラインを適用して、鉄の変化に応答する新規の推定タンパク質コード領域を同定したところ、地上部と根で38と37の新規鉄応答性コード領域が得られ、そのうち11(シュート)と12(根)はLC-MS/MSデータでサポートされていた。我々は、このアプローチにより、モデル植物シロイヌナズナのプロテオームが完成し、植物の環境シグナルへの適応に重要な新規のプレーヤーが同定されると考えている。さらに、このデータベースは、生物学における大きな問題の一つである遺伝子活性のマルチレベル制御をさらに解決するためのテンプレートになると考えている。