WINEP

-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
転載希望時は連絡先まで

葉緑体における鉄の取り込みは、鉄欠乏による一酸化窒素の産生によって抑制される

Date: 2022-08-11 (Thu)

以下の要旨もISINIPの講演要旨からである。


葉緑体における鉄の取り込みは、鉄欠乏による一酸化窒素の産生によって抑制される

Helga Zelenyánszki, Sophie Farkas, Zsombor Csizmadia, Aravinda Kumar Potluri, Krisztina Németh, Barnabás Cseh, Anna Koncz, Tamás Visnovitz, Zsuzsanna Kolbert, Zoltán Klenssár, Ádám Solti

ELTE Eötvös Loránd大学植物生理学・分子植物生物学教室、ブダペスト、ハンガリーなど

植物細胞小器官における鉄の状態に関するシグナルの性質はほとんど知られていない。一酸化窒素(NO)は植物組織の鉄のホメオスタシスの調節に古くから関係しているが、葉緑体のNO産生がプラスチディの鉄の取り込みとホメオスタシスに果たす役割はまだ明らかにされていない。NOは、葉緑体Feホメオスタシス要素の発現制御に関与していることがこれまでに示されている(Wen et al.、2019)。さらに、NOはタンパク質のTyrニトロ化およびCysニトロシル化を開始させることができる。酵素のCysニトロシル化は、アロステリックな調節的役割を持つことが確認されている。また、NOはタンパク質のTyrニトロシル化およびCysニトロシル化を促進する。
葉緑体のNO蓄積はDAF-FMジアセテートによって検出された。クロロフィルとベンゾトリアゾール(DAF-FMジアセテートとNOの反応で生成)の自家蛍光シグナルはフローサイトメトリーと蛍光顕微鏡で検出された。Cd処理およびFe欠乏植物の葉から分離した葉緑体の約40%がDAF-FM蛍光陽性であったのに対し、最適なFe栄養下で栽培した植物から分離したプラスティドは10%の陽性であった。共焦点レーザー蛍光顕微鏡でも、葉緑体の周囲に強いNOシグナルが確認された。半定量的な測定のために、NOはN-methyl-D-glucamine dithiocarbamateによって葉緑体中に捕捉された。スペクトル積分により,Cd処理植物の葉緑体には1-4μMのNOが存在することが示された。FRO7, PIC1, NiCo, NEET などの葉緑体鉄取り込み・恒常性維持因子のタンパク質配列は I-TASSER で立体構造予測を行った。二次構造は2StrucCompareで決定し、JpredとPSIPREDサーバーで予測した。膜貫通へリックスの検出とドメイン予測には、それぞれTMHMMとPfamサーバーを適用した。最適なモデルは、UCSF Chimeraプログラムを用いて、変更可能なTyrとCysの側鎖を検索した。調査したタンパク質には、複数のCysとTyrの表面残基が存在する。その結果、鉄ホメオスタシスメンバーにTyrニトロ化およびCysニトロ化が起こり、特に酵素機能の変化や阻害につながる可能性があることがわかった。先に、葉緑体FROの基質親和性の低下(Solti et al., 2014)および葉緑体の鉄吸収の早期低下(Sági-Kazár et al., 2021)を指摘しましたが、これらは葉緑体の直接および誘導鉄欠乏下でNO産生の増強と共起しているため、NOによる翻訳後タンパク質修飾は葉緑体の鉄恒常性に調節的役割を持つことが示唆されます。
参考文献
Sági-Kazár et al. (2021) Front Plant Sci 12:748.