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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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フィトシデロフォア類似物質プロリン-2'-デオキシムギネ酸(PDMA)のイネ科植物への効率的な鉄分施肥法としての開発

Date: 2022-08-11 (Thu)

以下は、ISINIPで発表された、日本の愛知製鋼を中心としたグループが総力を挙げるて取り組んでいる、ムギネ酸アナログ肥料の報告である。すでにこのホームページでも nature communicationsの成果を紹介している。

フィトシデロフォア類似物質プロリン-2'-デオキシムギネ酸(PDMA)のイネ科植物への効率的な鉄分施肥法としての開発
 
鈴木基史1、鈴木雄太郎2、小林孝徳2,7、内川義則3、井上晴彦3,4、中西啓仁5、難波康祐6
1 愛知製鋼株式会社 〒476-8666 愛知県東海市荒尾町和野割1番地
2 石川県立大学資源生物科学研究所 〒921-8836 石川県野々市市末松1-308
3 東京理科大学。
4 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構。
5 東京大学大学院農学生命科学研究科 〒113-8657 東京都文京区弥生 1-1-1 Tel.
6 徳島大学薬学部、〒770-8505 徳島市庄町1-78-1。
 
鉄は必須栄養素であるが、アルカリ性土壌では溶解度が低いため生物学的利用能が低く、農業の生産性を低下させる。この問題を克服するために、我々は以前、イネ科植物由来の天然フィトシデロフォアである合成 2'-deoxymugineic acid (DMA) の土壌施用により、石灰質土壌で栽培したイネの鉄欠乏が回復することを示した (Suzuki et al. 2021)。しかし、合成DMAは高価で安定性が悪いため、農業利用ができない。我々は、より安定で安価な類似体であるプロリン-2'-デオキシムギニン酸(PDMA)を開発し、その実用的な合成法を実証した(Suzuki et al.2021)。DMAは、先に述べた2-アゼチジンカルボン酸ではなく、L-プロリンから合成した(Namba et al., 2007)。PDMAの鉄分肥料としての有効性は、石灰質土壌にPDMAを土壌施用することでイネの生育が促進されることで立証された(Suzuki et al.2021年)。本研究では、PDMAがイネやトウモロコシなどのイネ科植物において、強力かつ効率的な鉄分肥料であることをさらに証明する。イーストコンプリメンテーションアッセイにより、イネOsYSL15がFe(III)-PDMAを輸送することが示唆された。イネの水耕栽培溶液にFe(III)-PDMAを添加したところ、木部樹液中にPDMAが検出された。Fe(III)-PDMAまたはPDMAを石灰質土壌ポットに施用すると、イネの鉄欠乏性クロロシスはFe(III)-DMAを供給した場合と同様かつ長期にわたって強く回復し、葉中の鉄濃度は増加した。一方,Zn(II)-PDMAの施用は,葉のZn濃度を増加させた。トウモロコシの石灰質土壌ポット培養試験において,Fe(III)-PDMAを土壌に施用すると鉄欠乏性クロロシスは回復したが,従来の合成キレート剤Fe(III)-EDTAおよびFe(III)-HBEDは回復効果が少なかった。また、水耕栽培したトウモロコシの根のフェリックキレートレダクターゼアッセイでは、Fe(III)-PDMAはFe(III)-citrateと同等であり、Fe(III)-EDTAやFe(III)-HBEDよりはるかに高い還元力を示した。これらの結果は、イネ科植物が従来の合成キレート剤ではなく、Fe(III)-PDMA を strategy-II および strategy-I の両方のメカニズムで利用できることを示唆するものであった。
 
参考文献
Namba, K. et al. (2007) A Practical Synthesis of the Phytosiderophore 2′-Deoxymugineic Acid: A Key to the Mechanistic Study of Iron Acquisition by Graminaceous Plants. Angew. Chem. Int. Ed. 46: 7060-7063
Suzuki, M. et al. (2021) Development of a mugineic acid family phytosiderophore analog as an iron fertilizer. Nat Commun. 12: 1558