あじさいの色と土壌のPH:AlとFeについて
本欄は最初winepブログに掲載した物であるが、専門的過ぎるので、理解しがたいというクレームをいただいたので、ホームページに移した物である。
あじさいの木の“新葉クロロシス”と“赤い花びら”の相関について ‐<鉄とアルミニウムの相関> ‐
東京ではいま、あじさいの花が盛りになりつつある。しかしまだ花の色は鮮明とは言い難い。
あじさいの花弁の色がアルミニウムイオン(Al3+)に関係があり、土壌のpHが4以下の酸性であるとアルミニウムが溶けてアルミニウムイオンがあじさいの根から吸収されて地上部に移行して葉の色素であるアントシニンとキレート結合して青い色を呈する。アルミニウムがないと赤い色のままである、というのは植物栄養学の常識である。
ところが、意外に、あじさいの新葉が簡単に鉄欠乏クロロシスになることを知らない人が多い。ピンクや赤の花びらを付けたあじさいの木の新葉は必ずといって良いぐらいきれいな ”葉脈間クロロシス”を呈している(写真中、下)。つまり新葉の葉脈がきれいに浮き上がっている(写真下)。そうでない場合も、そのようなあじさいの葉全体が濃緑でなく薄緑である(写真中)。これは、何らかの要因で土壌がアルカリ化すると土壌からアルミニウムばかりでなく鉄も溶けてこないので直ちに新葉が鉄欠乏をし、それと同時に花が咲いている場合は色が赤くなってしまうということなのである。
アルカリ土壌では鉄が吸収されにくいので木の生育が遅れてなかなか花が咲きにくい上に、花弁が矮小気味であるのが赤色あじさいの特徴である。
石灰質土壌が多いイタリアなどではほとんどのあじさいが真っ赤であり、ほとんどすべての葉がクロロシスを呈している。地元の人たちはこれがあじさいの葉であり、これがあじさいの花の色だと思っているようである。
鉢植えや花壇などで石灰をやりすぎるとピンクか赤いあじさいの花になる。街路樹のあじさいも、コンクリートのせいで土壌がアルカリになりやすいので、ピンク色の花が散見される。逆に土壌に硫黄華やうすい硫酸をまいて土壌を酸性化すると、赤い花が青い花に変化する。写真(上)はちょうど赤と青の中間の花が咲き乱れている。ここは上野の不忍池の端(はし)の傾斜地で、雨によって土壌の含水量がかわりやすく、土壌のpHも容易に変わりやすいところであるので、あじさいの木がアルミニウムを吸収できるか出来ないかの瀬戸際での生育を示していると思われる。
あじさいの花が赤くても新葉が鉄欠乏クロロシスを呈していない場合がある。これは、そのあじさいの根が中性や弱アルカリ条件でも、3価鉄(Fe3+)イオンを2価鉄(Fe2+)イオンに還元する酵素活性が比較的強い品種であるので、ある程度鉄が吸収されて鉄欠乏にならないのである。これらのあじさいも石灰を多く施肥して土壌を中性からアルカリにすると、根の3価鉄還元酵素活性が低下するために、2価鉄イオンが形成されないので鉄が吸収出来ずに、葉にクロロシスが現れるのである。
逆に、青いあじさい(土壌が酸性であるので根から吸収された体内アルミニウムが体内に十分ある)で新葉がクロロシス(体内に鉄が足りない)を呈している品種はまず存在しない。
注:双子葉植物であるあじさいの「鉄の吸収のメカニズム」については Winepのホームページのtop pageのStrategy-Iの動画とその説明文を参考にしてください。